じょりじょり 


 明けのカイくん。

「ヒゲ伸びてるー。」

 お迎えの車の中。
 カイくん、ひげを剃ってない。
 にょにょっと突き出した黒いやつ。
 カイくん、色黒ではないから、目立つ目立つ。

「じょりじょりだー。」

 カイくんのあごをなでながら。

「ごめんよ。
 あとで剃るから。
 さっきまで寝てて、剃る暇なかったんだって。」

 運転するカイくんの迷惑もそっちのけで撫で回します。
 不思議な感覚です。
 カイくんの薄くて柔らかい皮膚に、タワシの毛先のようにかたいものが立っているので、なんとも表現しがたい独特の感触が指に伝わってきます。
 つんつんしてひっかかるような、柔軟に避けられるような。

 家に帰って。

「じょりじょりー。」

 こんどは、ばかカイ。
 抱いたついでに、あごを私のほっぺにこすり付けてきます。
 手で触るときとちがって、肌が削られるかんじ。

「痛いってばー、じょりじょり。
 ばかカイ。
 ヒゲそれ。」

 押しのけながら私。
 はいはい、とカイくん。
 洗面所でジャージャーと水の音。
 あんまりにもヒゲを伸ばしてくることが多かったので、カイくんにひげそりを買ってあげました。
 ガンダムのやつ。
 特別なプレゼントでもないのに、予想外に喜んでくれたのはついこないだのこと。
 ちなみにシェービングフォームは私が男性用を買って、カイくんと共用。

「あきちゃん、タオルとってー。」

 手近にあったバスタオルを渡しました。
 顔を拭きふき、出てきたカイくん。

「やばい、切れた。」

 げ。

「切れると、とんでもなく血が出るんだよなー。
 俺だけかなぁ。」

「痛い?
 だいじょぶ?」

「ん、全然痛くないんだけど。
 何しろ、血の量が半端ない。」

 鏡をのぞき込むカイくん。
 私はカイくんの残したバスタオルを広げ。

「わー。
 血、ついてるよ。」

 以前にもやられました。
 今回は買ったばかりのバスタオル。
 安物だからいいんだけど。

「あ、付いちゃった?
 ごめん、あきちゃん。」

 使い古しのタオル、渡せばよかった。
 学習してないな、私。
 けっこう染みてる範囲が広い。
 かなりの出血。
 心配になってカイくんのあごを見に行くと。
 まあるいビーズのような血のしずくが、肌にのっていました。
 落ちないのが不思議…

「もう固まったの?」

「うん、もう止まってる。」

 ぴんぴん、とカイくんが指先でたたいて見せます。

「へえー。」

 人体の不思議。
 男の人って、大変だなあ、と。
 特にカイくん、皮膚が薄いわりに、ヒゲが硬くて太い気がする。
 なんかかわいそう。

 だいじょぶ? カイくん。
 まだ血染めのタオル作ったりしてるの?