逃げる者、追う者6 


 カイくんの家に行く道のり。
 母と、いろいろと話しました。
 これまでのことを整理しつつ。
 ほとんど関係のない話も。
 私が大河と、なぜ別れることになったのか、とか、インフルエンザのとき、助けてくれたのがカイくんとその家族で、とか、そのあと、一度別れることにした、とか。
 今までのカイくんとの歴史。
 旅行のことも。
 カイくんの上司が宿を取ってくれた、ということを話すと、母は全否定でした。

「そんなのおかしいわよ。なんで上司がそんなことまで決めるの?」

「いや、ほんとに親切心かもしれないよ。
 確かにカイくん、行き先がわかってないと不都合があるから、言うとおりにしたほうがいいんだって、言ってたけど。
 でも、ほんとに親切でやってくれたのかもしれないじゃない。いい宿知ってるからって。」

 なんにしても、情報が少なすぎるのです。
 推論して、あれやこれや言うのは心もとない。
 結局、結論は出ないのです。


 先日、母方の親戚が結婚しました。
 だんなさんは、さっそく尻に敷かれているそうです。

「黙ってパンツまでたたむのよ。
 嫁さんはああしろこうしろって命令ばっかり。
 しかもみんなのいる前で。
 あれじゃ、やっていけないわね。長続きしない。」

 その家に招かれたときに母が見たことだそうです。

「うちのお父さんだって、パンツたたむじゃない〜。」

 とちゃかす私。
 現役のときから、家にいる時間が長いのはどちらかというと父のほうでした。
 家事は、分担。できる人が、できるときにやる。
 父も母も、洗濯、炊事、買い物、子どもの面倒など、そのときにできる方がやっていました。
 掃除だけは、父が不得意としていたので全面的に母がやっていましたが。
 ぱんつ、たたんでました。
 調子がいいときにはそれはいまも続いていることです。

「そうだけど、怒鳴ってしからないでしょう?
 それで、だんなは何も言わないのよ。」

「まあ、命令されないと動けない人って、いるし。
 人に尽くして、自分の存在意義を感じる人もいるわけだから。」

 言いながら、カイくんのことを思い浮かべてました。
 カイくんも、そのクチかなあ。料理教えたら、覚えてくれたし。
 家族第一主義だし。
 私のぱんつも、たたんでくれたりするのかな…
 と思って、思い出しました。
 あ、ぱんつ、たたんでた。
 仕事から帰ってきて、洗濯物を取り入れてたら、手伝ってくれてた。
 これって、どうやってしまうの? って。
 ブラジャーとパンツ。
 最初は、にっと笑って面白半分みたいだったけど。
 も〜、これはこうするのっ、って。やったら。
 カイくんがていねいすぎて、ちょっとびびったっけ。


「やっぱり、実家に連れて行きたいよ。
 普通にごはん食べて、3人で話して。普通の話でいいの。
 お父さんにも、会わせたい。カイくんのこと、わかってほしい。
 それからお風呂入って、一緒に寝る。」

 私がそう言うと、母は、

「そうだねえ、そうできたらいいけど。」

 話のついで、と思って母に聞きました。

「もし、私がカイくんといっしょに寝たいって、言ったら、どうする?」

「だめよ、そんなの。
 こんなことになってるのに。」

「じゃあ、コンナコトになってなくて、ただ家に遊びに連れて行ってたら?
 和室空いてたでしょ。あそこで一緒に寝るって言ったら?」

 母はちょっと考えてました。

「そりゃ、あきがどうしてもって言うならしょうがないけど、いっつも一緒に寝てるんでしょう?
 うちにきたときまで、一緒に寝なくてもいいんじゃない?」

 はあー、そうですか。
 それも正論といえば正論。
 「寝る」という言葉には少なからず「セックスする」という意味が含まれてる、とすると。
 カイくんのお母さんは、結婚前の男女がっていう論。
 うちのお母さんは、やるならよそでやんなさい、っていう論。
 だと思う。
 でも、私は純粋に、睡眠時間の前後、眠りに落ちるときと目覚めたとき、カイくんの体がそばにあってほしいから。
 夜中、ふうっと意識が起き上がってきたとき、布団をかけなおしたり、背中にぴったりくっついてみたり、もういっかいおやすみのちゅうをほっぺたにしたり。
 そういうことが、大好きだから。
 一緒に寝る、=セックス、だからだめ、っていう理論は横暴だと思う。
 どうして子どもの純粋な気持ちを理解してくれないかなあ、親は。
 どっちかの母親でも、この家ではセックスするなって言ってくれちゃえば、守るんだけど。
 やあねえ、親世代って。

 カイくんの母親が厳しすぎるのか、気になって聞いてみた質問。
 やっぱり、抵抗はあるもんなのね、程度の差はあれ。
 考えててばからしくなったのでやめました。


「カイくんのお母さんねえ、何でも知ってるの。私のこと。
 大河と付き合ってたこととか、学生時代何してたかとか。
 付き合ってすぐ、初めて家に行ったときからだよ。
 あれは気持ち悪かった…」

 正直、ショックを受けました。
 自分の大事な物を勝手に投売りされたような感覚で。
 でも、仲がいい親子って、そういうものなのかな、と受け入れました。
 家族にはいろんな形があるから。
 今日も、もしかしたら、カイくんのお母さんからなにか言われるかも。
 あのうわずった高い声で。
 覚悟しとこう。
 よし、何でも受け止めよう。
 覚悟決めた。

 私は、親とこんなに自分のことについて話すのは初めてだ、と新鮮な気持ちでした。
 なんでだろうか。
 私の性格なのかな。
 今まで過ごしてきた家族の歴史のせい?
 親の方針がそうさせたのかな。
 放任主義のような甘やかしのような、個人尊重? めんどくさがり?
 私は不平も不満も感じたことない。家族について。
 平凡で穏やかな家庭。
 その家に、私が波風を立てるのね、と、申し訳ない気持ちになりました。
 過去にも、そういうことがあったし。


 カイくんちまでの道のり。
 同じような家ばかりで、やっぱりわかりにくい。
 でも迷うことなく、たどり着くことができました。
 バイクも車もある。車2台。カイくんの車じゃなくて、お兄さんの車が停まってるのが気になるけど。交換して使うこともあるって言ってた。
 誰が家にいるんだろう。
 心臓がはね上がるのをこらえながら、呼び鈴を押しました。

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