生息地:水族館 


 夏のデートといえば水族館です。
 といっても年がら年中行ってましたが。
 クーラーがきいてて涼しいし、見た目にも涼しい。
 まわりほとんど水ですから。

 ちょっと遠いのと、入館料がかかるのがたまにキズ。
 けど、それすらも飛びこえて、大好きな場所でした。
 一人ででも、友だちとも行くけれど、やっぱり好きな人と行くのがいちばんいい。
 カイくんと、ふたり、平日に限って行きました。人が少ないから。
 いつものように、車で「ぷぅ〜ん」と。

「サメさん、カメさん、イルカさん。クラゲさんも見るぅ」

 とうもころし、と、おじゃまたくし、な私。
 なん才児なんだか。
 三十前のばか女。
 カイくんの前だと、ひどく幼児化します。

「クラゲさん、いっぱいいると良いねえ。こないだは少なかったから。」

 ノッてくれるやさしいカイくん。
 子守、ご苦労様です。


 入館料は、きっちり自腹です。あたりまえだけど。
 ときどき、カイくんがタダ券を手に入れてくれました。
 そのときは彼のおごり。

 時節によって入り口あたりが飾られてたりしますけど、ほとんどかわりばえなし。
 勝手知ったる…なかんじで通り過ぎて、館内へ。
 基本、手をつなぎます。
 いつでもどこでも、ですから。
 けど、夢中になって手を離してしまう。
 イルカ展示で、ガラス面にはりつく私。
 目で追いかけて、ニワトリのように首が動く。
 はっと気づくと、うしろで子どもが見にくそうにしてたり。
 すすすっと、子どもに場所を譲って角におさまる。
 ちょっと離れたところにいるカイくんに笑われました。

 照れ笑いをしながら、カイくんと後ろへ下がって。

「子どもって、やっぱり生き物好きだよね。」

 親子連れを見ながら。
 歩き始めたばかりかも、と思うくらいの小さな子が、イルカのほうを指差して、何か言ってます。
 でもおぼつかない喋りが日本語には聞こえない。
 となりでベビーカーを押すお母さんらしき人が、「そうだねー大きいねー」
 え、わかるの?
 母はすごいです。子どもに対して天才的な知覚を持ってます。

 思わずカイくんと顔を見合わせて、含み笑い。
 ほほえましくて、平和で、幸せ。
 カイくんも同じ事を思ってるとわかって、心があったかくなりました。

 水槽のほとんどが青。
 その青い空間に、心が落ち着きます、安らぎます。
 人が少ないので、ゆっくりとカイくんとしゃべりながら歩けます。

「私、昔ねー、オキアミになりたかった。」

「オキアミ?」

「うん、クジラのオナカに入れるじゃん。」

 暗いけど、あったかくて、水に揺られてて、大海を泳いで。
 そういう意味だったんだけど、カイくんにうまく伝わったのか。
 あとはうんこになって出るだけってつっこまれた気が。
 あとから考えたら、クジラそのものでいいじゃんねえ、って自分で思った。
 なんでそんなこと考えてたんでしょうね、昔の私。


 私がいちばん好きなのはクラゲ。
 脱力系?
 気ぃ張って生きすぎなのか、やっぱり根が怠け者なのか。
 オキアミとかクラゲとか。自分で高速移動できないやつらばっか。
 イルカが、例外かな。
 カイくんはカメにご執心なようで。
 さすが亀とり少年、亀飼いたいといつも言うことだけあって。
 あの背中に乗りたいらしいです。
 あと毛のあるやつら。
 無条件に、彼の擁護範囲に入っていました。
 体温あると、親しみわくよね、やっぱり。
 生き物に愛情をそそげるカイくん、すごくカンシンします。そして大好きです。
 本音、そこに自分への愛も期待しちゃうんですけど。


 水族館を出たら、必ずコーヒー。
 一日一回以上、カフェイン補充しないと動かない。私が。
 彼にコーヒーを飲む習慣はありませんでした。
 なので、自然と私のおごり。ゆいいつ、カイくんが断らない私からのおごりでした。
 ガス代も駐車料金も私が出そうとすると断るカイくんですけど。
 いっしょにコーヒーにするときもあれば、シェイクのようなあまったるーいのにすることもありました。

「これって、なんか逆だよな」

 カイくんが笑いました。ブレンドのカップと、生クリームののったグラスが並ぶテーブルを見て。
 ま、男女偏見なしってことで。


 青い空間に癒されて、カイくんと思う存分くっつける場所。
 生き物好きの二人にベストの場所。
 デートで行く場所で、いちばん大好きです。今も。
 カイくん、いっしょに行こうよ、水族館。

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