物語16 桜づくし 


 別れの危機を乗り越えて、桜の季節になりました。
 カイくんとは、よりいっそう、仲良し。


「花見に行きたい。」
 と、カイくんにリクエスト。
「いいとこ知ってるよ。」
 と、カイくん。
 私はいっしょうけんめいお弁当を作りました。
 なんだか心が弾みます。

 行き先は、墓地でした。
 カイくんのお父さんのお墓がある場所です。
 え、お墓?
 と最初は思いましたが、着いてみると高台にある、かなり広い整備された墓地。
 桜だらけでした。
 満開の桜。
 こぼれんばかりに花びらが広がって、目を奪われました。
 カイくんは、お父さんのお墓の前で一心に拝んでいました。
 私も、となりで手を合わせるべきだったのかな。
 遠くから見つめていました。
 心の中で何を語っているんだろう。
 家族になるのかな、私たち。
 また、いっしょにお墓参りに来ること、あるかな。

 しばし、カイくんと二人で腰掛けて、ぼうっと桜を眺めていました。
 すぐ脇を、小さな子どもが二人、かけていきました。
 お墓参りに来た兄弟でしょう。
 春の陽気と同じくらい、明るくあたたかな、はしゃいだ声。
 カイくんと顔を見合わせて笑いました。


 場所を変えて、また桜のあるところで車を止めました。
 そのまま車の中でお弁当。
 カイくんも、お母さんに頼んで幾品かおかずを持ってきました。
 さすがに、自分ではつくれなかったか。
 私が作ってきたお弁当も、カイくんは喜んで食べてくれました。
 生のきゅうりは失敗でした。水が出ていて。
 もっと料理の勉強しよう。
 カイくんは本当に良く食べる。
 なんでもおいしいというので、作り手としては苦労がないのですが…
 ほんとうに何が気に入ってるんだか、見極めにくいよ、カイくん。


 ここも、カイくんには思い出の場所だそうです。
 ふたりでしばらく歩き回りました。
 小川の傍の桜並木。
 桜の花びらの一枚一枚。
 隣り合った桜の枝の交差。
 緑の若草と白い桜のコントラスト。
 がさがさした幹、つるつるの幹。
 水面の花びら。
 私を見ている人は奇妙に思うかも。
 夢中になると止まりません。
 カイくんは「眠い。ちょっと寝てくるわ」と車に戻っていきました。
 花より団子ですか〜カイくん。

 寝かせといてあげよう、と出来るだけ時間をおいて車に戻りました。
 窓からのぞくと、運転席の背もたれを倒して、カイくんが眠っていました。
 いとおしい瞬間でした。
 好きだよ、カイくん。
 助手席のドアを開ける音で、カイくんが気づきました。
 そのままにじり寄って、ちゅう。
 バカップル。まちがいなく。


 私の家に着くころには日が暮れていました。
 すぐ近くの小さな公園にも桜が咲いていたので、ついでに夜桜見物に。

 どこに行くのも手をつないでいました。
 初めて手をつないでいたときには信じられないほどテレまくったカイくんも、ごく自然に私の手を取るようになりました。
 すきあらば、と触ってもきます。
 夜の公園で、カイくんにしがみつきました。
 ひんやりした夜の空気。
 カイくんの体温。
 このまま、幸せな時間が続きますように。



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